電子竹林:Blog

はてなダイアリーより引っ越し済み、主に映画

「亡国のイージス」

福井晴敏 講談社。「河の深さは」が江戸川乱歩賞の選考会で話題になり、翌'98年「Twelve Y.O.」で第44回江戸川乱歩賞受賞、その後の第1作がこれ。しかし、何しろ厚い…ニ段組みでぎっしり654ページ。三日で読めたが、ちょっと辛かった。イージス護衛艦<いそかぜ>が、改修後、訓練航海のため呉から出航する。一人息子を亡くしたばかりの艦長の宮津、妻に離婚を切り出された仙石(先任伍長)、新しく配転された海士の如月行。やがて、北朝鮮の精鋭工作員にハイジャックされ、さらに驚異的な威力を持つ化学兵器を武器に日本を脅かす。本格的海洋冒険小説、という評判だったがそうとは思えなかった。海上という設定も、護衛艦という閉鎖空間も活かされてない。船という閉塞感、海の開放感と危険性が出てこその海洋冒険小説だと思うのだけど、この小説には無い。閉ざされた空間は別に都会のビルでもいい様な設定だし、船も大して移動せずにこじんまりした空間に治まってしまっているし。そもそも、みんなどこかで見たような設定ばかりで情けない、「沈黙の艦隊」、「沈黙の戦艦」、「ダイハード」などなど。目指した所は、トム・クランシーなんだろうけど、こんなスケールじゃとてもじゃないけど、足元にも及ばないだろう。平和ボケ、ぬるま湯につかったような日本人に喝を入れる小説を目指していいても、余計にぬるま湯を印象づける様なボケた小説だった。海上自衛隊の「海の男」的な気質は丹念に描かれていて、よかったんだけど。