クロエ・ジャオ監督、ジェシカ・ブルーダー原作「ノマド 漂流する高齢労働者たち」。2011年1月31日、経済危機の影響でUSジプサム社はネバダ州エンパイアの工場を閉鎖、街が地図から消える。60代のファーン(フランシス・マクドーマンド)は家を手放し、自分で改造したワンボックスカーでの車上生活を送りながらアマゾンの配送センターなどで働いていた…。ベネチアで金獅子賞、トロントで監督賞、アカデミー賞で作品賞、監督賞、主演女優賞というのも納得の出来。原作はドキュメンタリー、それを無理に物語として展開させずに静かに描写することにより深みが出ている。米国の社会の現実を、悲痛な視点でもなく美しい自然の中の映像で淡々と描くことによって心が揺り動かされる。それが中国人女性監督というのがまた驚かされる。ノマドに高齢者が多いっては驚きだが、考えてみると当然か。鈴木清順主演のドラマ「みちしるべ」を思い出した。日本でも地方の街が消え、似たことが起きることは十分に予想される。フランシス・マクドーマンドの名演は当然だが、実際のノマドであり原作に登場するリンダ・メイとスワンキーの自然な演技を引き出しているのは素晴らしい。